統計解析小委員会によるエリスロポエチン製剤に関する論文について

2019年4月27日

 
統計解析小委員会によるエリスロポエチン製剤に関する論文について
 
 
一般社団法人 日本透析医学会   
理事長  中元 秀友
常任理事 猪阪 善隆
統計調査委員会委員長 新田 孝作


 日本透析医学会統計調査委員会・統計解析小委員会による原著論文“Types of erythropoietin-stimulating agents and mortality among patients undergoing hemodialysis” (『血液透析患者におけるエリスロポエチン製剤間の予後比較』)が2019年4月23日付でJournal of American Society of Nephrology誌にonline publicationされました。本論文が現在広く使用されているESAの生命予後に関する論文であり、臨床現場での混乱をまねく可能性もあることから「日本透析医学会の本論文への考え方を示すべきである。」とのご意見を頂きました。日本透析医学会統計調査委員会ならびに理事会での議論の結果、以下のように報告させて頂きます。

 本論文は、2012年末から2014年末までの本学会統計調査データベースを基に、エリスロポエチン製剤(以下、『ESA』)を投与されていた血液透析患者194,698例におけるESAの種類と2年予後の関係を解析したものです。種々の患者背景因子・交絡因子で調整した多変量Cox比例ハザードモデルにおいて、長時間作用型ESA使用群の生命予後は短時間作用型ESA使用群よりも有意に不良でした(全死亡ハザード比 1.13 [95%信頼区間 1.10-1.17]; P<0.001)。この傾向はESA使用量の多い集団(標準化ESA使用量3分位のうち最も高用量のサブグループ)で特に顕著でした(全死亡に対する2年間のnumber needed to harm [NNH]: 30.8)。さらに、ヘモグロビン(Hb)値がガイドライン目標値に満たない(9.0-9.9 g/dL) 短時間作用型ESA使用者よりも、ガイドライン目標値に到達している(10.0-10.9 g/dL)長時間作用型ESA使用者の方が生命予後は不良でした(全死亡ハザード比 1.09 [95%信頼区間 1.01-1.19]; P=0.03)。
 本研究はあくまで観察研究であり、長時間作用型ESAの使用と死亡リスク上昇の因果関係を直接的に示すものではありません。今後、介入研究を含めた更なる検討を要するとともに、ガイドラインで定められた目標Hb値を達成する方法論(薬剤選択)について議論を深める余地があると考えられます。